長く心臓外科医として診療してきましたが、振り返ってみると、今の診療スタイルに大きく影響していることがあります。

それは、研修医時代から診療部長になり最後まで、ベッドサイドから離れることがなかったことです。

大学病院や関連病院では、比較的少人数のチームで診療する期間が長く、経験を積んで手術を任される立場になってからも、手術だけをしていればよいという環境ではありませんでした。手術前から患者さんを診て、手術をして、術後も自分で診る。状態が悪くなればベッドサイドに行って、何が起きているのかを考える。それがごく普通の日常でした。

外科医は経験を積むにつれて、より難しい手術を任されるようになります。その一方で、立場が上がるほど日々の細かな患者さんの変化を見る役割は若い医師へ移っていくのが一般的です。少人数だったこともあり、幸か不幸か、そのような役割分担が十分にできませんでした。

ただ、今になって考えると、それは大きな財産だったように思います。検査値だけを見ていても分からないことがあります。

昨日より食事が進まない。少し元気がない。歩けなくなってきた。微熱が続いている。個々に見れば小さな変化でも、患者さんのそばで経過を見ていると、「何かがおかしい」と感じることがあります。

そして、その違和感からもう一度全体を見直してみると、当初考えていた心臓の問題とは別の病態が見えてくることもありました。

専門医として一つの領域を深く見ることはもちろん大切です。しかし、患者さんは一つの臓器だけで成り立っているわけではありません。

専門を深く見ることと、患者さん全体を見ること。

その両方を大切にするという今の診療の考え方は、長い間ベッドサイドから離れずに患者さんを診てきた経験から、自然に身についたものなのかもしれません。

六町ハートクリニックを開院して、循環器以外のさまざまな相談を受けるようになった今、そのことを改めて感じています。