Connect the Dots 〜点と点がつながる時〜
先日、大学での最終講演を終えました。いよいよ大学での仕事も終わりが近づいてきたことを実感しています。
講演では、この10年間取り組んできた三尖弁の研究についてお話ししました。しかし準備を進める中で気づいたのは、この研究は決して私一人の力で生まれたものではなく、慈恵医大心臓外科学教室の長い歴史の上に成り立っていたということでした。
私たちの教室の初代教授である新井達太先生は、日本で初めて心臓外科学教室を開設された先生です。卓越した手術技術だけでなく、多くの新しい術式や学術的発見を世に送り出されました。私自身、両親の結婚式でご夫妻に司会を務めていただいたというご縁も後に知ることになりました。
その新井先生が1970〜80年代に手術された患者さんたちが、30年後になって三尖弁逆流の悪化により再び治療を必要とする時代がやってきました。私は2007年頃から、そのような患者さんの再手術を数多く執刀する機会をいただきました。
手術は成功しても、患者さんは心臓悪液質という重い状態に陥っていることが多く、術後管理に苦労しました。当時は「左心系の弁を治せば三尖弁逆流は改善する」と考えられていましたが、本当にそうなのだろうかという疑問が私の中に芽生えました。
それ以来、左心系の手術を行う際には積極的に三尖弁にも介入するようになりました。そしてさらに、「現在行われている三尖弁形成術は本当に理にかなっているのか」という新たな疑問へとつながっていきました。
その答えを探すため、柏病院病理部の方々の協力を得て、夜遅くまで心臓標本の観察を続けました。その結果、従来考えられていた三尖弁の構造とは異なる多くの知見を得ることができました。
これらの研究成果は2017年にThe Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery(JTCVS)に掲載されることとなりました。しかし振り返ってみると、この研究の原点はさらに昔にあります。1990年代に、当時の二代目教授であった黒澤博身先生から病理標本の見方を教わった経験が、研究の土台になっていたのです。
そして若輩者であった私に多くの再手術を任せてくださった三代目教授の橋本和弘先生との出会いも欠かすことはできません。
また、この発表の機会を与えてくださった國原孝先生にも感謝しております。
新井先生、黒澤先生、橋本先生、國原先生
当時はそれぞれ独立した「点」にしか見えなかった出来事や出会いが、振り返ると一本の線としてつながり、私の研究を形作っていました
さらに、その後はそれらの解剖学的知見を臨床に応用し、実際の患者さんで計測・検証を行ってきました。その成果をまとめた論文が、この2026年6月に再びJTCVSに掲載されることになりました。
標本を前に夜遅くまで観察を続けていた頃には、この研究がここまで発展するとは想像もしていませんでした。
スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学の卒業式で「Connect the Dots」という有名な言葉を残しています。
「将来を見て点と点をつなぐことはできない。振り返った時に初めて、それらがつながっていたことが分かる。」
今回の最終講演を準備しながら、まさにその言葉を実感しました。
実は今回の論文掲載をもって、自分の中ではこの研究に一区切りをつけるつもりでした。しかし研究を続ける中で、まだ世の中に伝えなければならないこと、解き明かさなければならないことが残されていると感じています。
大学という舞台からは離れますが、幸い研究に定年はありません。
これからはクリニックの院長として地域医療に取り組みながら、もう少しだけ論文を書き続けてみようと思っています。
そして今始まろうとしている開業という新しい挑戦も、いつの日か振り返った時に、新たな「点」と「点」をつなぐ出来事になるのかもしれません。
