10年後に答え合わせをした話 ― アトファイン
先日、当院の看護師と話をしていたとき、思いがけない名前を耳にしました。
「帝王切開のあと、傷あとが気になってネットでいろいろ調べて、アトファインを使ったんです」
その後の傷あともきれいに治ったとのことでした。
「アトファイン」。
私にとっては、とても懐かしい名前です。
実は私は以前、ニチバンの「アトファイン」の開発から販売、そして販促戦略に関わっていた時期があります。
アトファインが発売されたのは2016年。今から約10年前のことです。
当時、私たちが考えていたのは、単に「手術後の傷あとに貼るテープを作る」ということだけではありませんでした。
手術をする医療者にとって、創が問題なく閉じれば、ひとまず治療は終了します。
しかし患者さんにとっては、そこから先も傷痕と、ともに生活していく時間が続きます。
手術後の傷あとを、退院した後も患者さん自身がケアしていく。
そうした考え方を、製品とともに広げていきたいという思いがありました。
そして、もう一つ考えていたのが「この製品をどうやって必要な人に届けるか」ということでした。
当時、私たちはその考え方を「Web 2.0」という言葉で表現していました。
今では少し懐かしい言葉ですが、企業が広告によって一方的に商品を売り込むのではなく、実際に使った人の経験や情報がインターネット上に蓄積され、それを必要としている人が自分で調べ、自分で見つけ、商品にたどり着いていく。
アトファインを、そんな商品にしたいと考えていました。
それから約10年。
私は大学病院での診療を経て、六町でクリニックを開業しました。
そしてそこで一緒に働いている看護師が、私がアトファインに関わっていたことなどもちろん知らず、自分自身の帝王切開後の傷あとについてネットで調べ、数ある情報の中からアトファインにたどり着き、実際に使っていたのです。
その話を聞いたとき、何とも言えない感覚がありました。
「あのとき考えていたことが、本当に起きている。」
10年前に会議室で思い描いていた「商品の届き方」が、時を超えて、まったく予想もしなかった形で自分の目の前に現れたのです。
もちろん、一つの経験だけで製品の効果を語ることはできません。
それでも私にとって嬉しかったのは、特定の商品が使われていたことだけではありません。
必要としている人が自分で情報を探し、自分に必要なものを見つけ、そこにたどり着く。
まさに、私たちが当時思い描いていたことでした。
医療の仕事をしていると、そのとき取り組んでいることが、10年後にどうなっているのかを見ることのできる機会は、そう多くありません。
新しい治療、新しい仕組み、新しい製品。
一生懸命取り組んでいても、それがその後どのように育ち、誰のところに届いているのか分からないまま、次の仕事へ進んでいくこともあります。
だからこそ今回、何気ないスタッフとの会話から、
「あのとき自分たちがやっていたことは、間違っていなかったんだな」
と、10年という時間を超えて教えてもらったような気がしました。
そして今、私は六町ハートクリニックという新しい場所で、またさまざまなことを始めています。
今取り組んでいることの答えも、すぐには分からないのかもしれません。
それでも10年後、どこかで誰かが、
「あのとき、あれがあってよかった」
と思ってくれていたら。
今回の出来事は、そんなことを改めて考えさせてくれる、少し嬉しい出来事でした。
